2023年09月07日


ショパン:前奏曲 第20番 ハ短調 Op.28 [2023] / Frederic Francois Chopin:Prelude No.20 in C minor, OP.28

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♪第36話:【特別編】永井美里のポーランド旅行記、ショパンゆかりの地を訪ねて得た気づき

みなさん、こんにちは。
CMSL所属のピアニスト永井美里です。

みなさんとお会いするのは、かなりお久しぶりになりますね。

コンマスのレアさんもお話していたように、実は8月の中頃から私ひとりでショパンの出身国であるポーランドに行っていました。
ショパンの生家はワルシャワから西に約60kmほど離れたジェラゾヴァ・ヴォラ村にあります。

ピアニストとしてはやはり、一度は行ってみたい場所でした。
ショパンゆかりの地を訪ねることで、彼が遺した美しい音楽の原点を探りたいという思いと、ピアニストとしての自分の在り方を、もう一度ゆっくり考えてみたいという思いもありました。

1810年に誕生した(諸説あり)ショパンの生家は、広大な庭園の敷地内にありました。
庭園は緑豊かで小川が流れ、趣のある橋もかけられていました。

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有名なショパンの生家ですから観光客で賑わっているかと思いましたが、私が行った日はツアーの団体客20人ほどに会ったぐらいで、比較的静かに落ち着いて周辺を散策することができました。
敷地内にはショパンに関連した石碑やモニュメントがあり、各所でショパンの名曲も流れていました。庭園は1937年に完成されたそうです。

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(Googleストリートビュー)

この家で生まれたショパンは1歳になる前に家族でワルシャワに引っ越していたそうです。
でも、この家の元の所有者だったスカルベク伯爵とショパンの両親はその後も交流が続いたので、休暇などの時にはショパンを連れてここに来ていたようです。
ショパンが生まれた当時の建物は消失してしまったものの、家具や内装はその頃のままに復元され、展示・公開されています。

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ショパンは20歳の頃に故郷を離れ音楽の都ウィーンへと旅立ちました。その後はパリで活躍して一躍有名になったショパンでしたが、故郷ワルシャワの地への想いは途切れることがなく、いつかは凱旋したいと望んでいました。

しかし、当時のポーランドはロシア帝国の支配下にあったため帰国もままならず、39歳で亡くなるまで故郷に再び足を踏み入れることはありませんでした。
その代わりにショパンは「自分の心臓を故郷に持って帰って欲しい」と遺言に記し、その通りに姉がショパンの心臓をワルシャワに持ったそうです。聖十字架教会の柱の中にショパンの心臓は埋め込まれ、今もそこに眠っています。

ショパンの生家と庭園は彼が実際に生きた時代のものをどれだけ再現しているかはわかりませんが、当時から変わらないであろうその土地が持つ空気感は充分に感じ取れました。
そして「こういう場所がショパンの美しい旋律の原風景になっているのかもしれない」と思いをめぐらせました。

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ポーランドを訪れる前、私は「自分は一体何のためにピアノをやっているのだろう?」と少し悩んだ時期もありました。
十代は何も考えずに、ただ「自分の技を見てほしい、私に気づいてほしい」とだけ考え、がむしゃらにピアノに向かっていた私でしたが、数か月ブランクを置き、落ち着いた時間が持てるようになってからは、あらためて自分がピアノを弾く意味を考えるようになっていました。

今回、ショパンの生家を中心として、ワルシャワ周辺を旅した過程で自分の中に起きたのは「やっぱり私はピアノが好き」という気づきでした。
十代の頃は好きも嫌いもなく、ただ「弾かなければならない」と思って弾いていました。でもそれが意味をなさないものだと知ってから、新たなモチベーションが見つからずにいました。

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私にとってピアノは有名になるための手段ではなく、自分を人に認めさせるための道具でもなく、生活の糧を得るための生業でもありません。
ピアノを弾くと心が満たされ、自分が自分であるという感覚になります。私が私であるために、ピアノはどうしても必要なものなんだとこの旅で気づきました。
今後はその気づきが自分の演奏にも反映されたらいいと願っています。

さて、帰国して最初に弾く曲は何がいいだろうと色々考えましたが、実際は帰りの飛行機の中で決めていました。前奏曲の第20番です。
ポーランドに滞在中、なぜだかこの曲がずっと頭の中に流れて離れませんでした。
せっかくショパンのゆかりの地を訪ねてきて、そのお土産にみなさんにお聞かせするのだから「別れの曲」とか「雨だれ」のようなよく知られた曲がいいと頭では思いつつ、心では「前奏曲 第20番」で迷いはありませんでした。

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この曲は演奏時間が2分にも満たない短さで、派手な展開もなく、ただひたすら和声が連結していくだけの造りです。
でも、音楽がもつ奥行きの深さは例えようがなく、自分で弾いていても和声の並びの美しさにいつも涙しそうになります。

短調なんだけれど単に悲しいとか、孤独とかの感情ではなく、それらを超えたもっと深くて根源的なものを表現しているように感じます。
それは"言葉"では表せません。だから"音楽"なのです。

「前奏曲 第20番」には力強い意志と瞑想的な繊細さが同居しています。
こんなに難しい曲はないです。帰国して取り急ぎ録音しましたが、自分では少しも満足していません。こんなものじゃないとわかっていても、これが今の私の精一杯です。

きっと、これから一生をかけて取り組んでいく、私にとっての生涯の課題だと思っています。



ショパン:前奏曲 第20番 ハ短調 Op.28 [2023]
Frederic Francois Chopin:Prelude No.20 in C minor, OP.28 [1:57]



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posted by CMSL クラシック名曲サウンドライブラリー at 04:15 | 器楽曲・Piano | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする