♪第19話:【永井美里のマイルームへようこそ! 第1回】ピアニストの永井美里がトークと演奏をお届けする新番組がスタート
こんにちは。
CMSLシンフォニックオーケストラのピアニスト・永井美里です。
いつもこうごあいさつしていますけれども、正確には音楽事務所CMSL所属のピアニスト・永井美里です。みんなと一緒の時は手間取るので合わせちゃっています。
さて、今回も新しいプログラム開始のお知らせです。
タイトルは「永井美里のマイルームへようこそ!」。この番組ではピアニストである私が単独で行った演奏会やレコーディングの音源を中心にお届けしていきます。
ピアニストは特殊な演奏家で、他に誰もいなくても自分一人で演奏会を成立させられます。同様にレコーディングなどの演奏活動も可能です。
クラシックのピアノ曲には魅力的な作品がたくさんあります。またピアノは日本でも特に人気の楽器のようなので、このプログラムではそうしたピアノの名曲の中から選んで、わたくし永井美里自身が演奏してご紹介していく予定です。
…と、その前にみなさんにひとつだけお話ししておきたいことがあります。
私は数年前にピアニストとしてプロになり人前で演奏することを望まなくなりました。音楽はなにも人に聞かさなくても、自分ひとりで弾いて楽しんでいれば十分だと考えるようになって数年が過ぎました。
最初の自己紹介で私のピアノに対する熱意は「プロをめざすほどではなかった」とお話ししましたが、それは違います。
本当はやるからにはいわゆる一流のピアニストを目指して、自分なりに研鑽を積んでいました。
以前にもお話ししましたが、トワさんがジュニアオーケストラでヴァイオリンを弾いていた頃にはソリストとしてピアノで共演したこともあります。
その後も何度か地方オケなども含めて、ピアノ独奏でオーケストラと共演したことがあります。同世代には私より上手い子がいくらでもいたのに「なんで私が?」と思いつつも、素直に実力が認められたんだと受けとめ感謝しながら弾いていました。
ところが、つい最近… と言っても数年以上前になりますけど、私が次々と独奏で呼んでいただいたのは、どうやら父が裏で手をまわしていたらしいことを知りました。
父はそれなりによく知られた企業を経営する人物で、コネも多く、財力もあるため、私が各所のオーケストラと共演できるように手回しするのは難しいことではありませんでした。
私は父にそのことについて直接尋ねましたが、父は「知らない」の一点張りで話になりませんでした。でも、私は複数の人からうわさレベルの話を聞いたのでほぼ間違いないと思います。
大体、私ばかりがあちらこちらのオケに呼んでいただくのは「おかしい」とは思っていました。ですが理由を知って納得したのと同時に、何だか急に全身の力が抜けて「私が今までしてきたことは何だったんだろう?」との思いが頭から離れなくなってしまいました。
音楽のことも嫌いになりました。少しでも音楽や自分に起こったことを忘れようとして、色々な仕事に首を突っ込んだりもしました。そのうちのひとつがガロ理事長と出会ったクラブのホステスでした。
クラブ勤めは「社会を知るために」という理由もうそではありませんが、本当のところはその頃が一番捨て鉢な気分だったからです。
ですからガロ理事長と出会った席で色々話して、その後ピアニストとしてうちで活動してほしいと言われた時にも、内心は興味がなくても一応は上辺だけで返事している感じでした。
どうせ自分が本格的に活動することはないだろうと思っていました。
あの頃を考えると今の自分は随分と変わったと思います。
協奏曲で何度かオケと共演したり、楽団員の仲間と交流する中で、私の中にあった音楽に対する愛情が少しずつ目を覚ましていったようです。特にイングリッシュホルンの新山さんとの共演は忘れられません。
新山さんは精神を患っているため、コンサート当日もギリギリまでどうなるかわからない状態でした。それでも新山さんは少しでも自分を変えようと、がんばってラヴェルの協奏曲と向き合っていました。
第2楽章の後半は新山さんの独奏で、私はアルペジオ風にピアノを弾いて伴奏にまわりました。彼女の奏でるイングリッシュホルンは淋しげで、それでもどこか決意を感じさせるかのような響きで、ピアノを弾きながら私は胸が詰まる思いでした。
短いながら私も何か月か人との交流を避け、部屋に引きこもった時期がありましたから人ごとではありませんでした。あんなにも誰かの伴奏で心が満たされたことはありませんでした。
私は新山さんを支えながら何度も「どうか彼女の心が軽くなりますように」と願わずにはいられませんでした。
こうした出来事を経験するうちに、「二度と人前では演奏しない」と決めていた私の心が、「こういうのもいいかもしれない。音楽は人と合わせて演奏して、それを人に聴いてもらうのが本来の姿かもしれない」と思うまでになりました。
新山さんは今、次に自身がイングリッシュホルンを独奏する予定の「中央アジアの草原にて」の本番に向けて準備しています。
私自身はほかに単独で、ウクライナからの避難者の方々を支援する演奏会に参加させていただきました。この経験も私の気持ちを強く揺さぶりました。
その時のお話はまた次回にでもさせていただきます。
さて、新プログラム「永井美里のマイルームへようこそ!」第1回に何を弾こうかと迷いましたが、私がピアノを始めた頃、最初に真剣に取り組んだショパンの「幻想即興曲」をお届けしようと決めました。
この曲の旋律はコロコロと転がるように音が流れていくのがきれいで、ピアノの特性が特に活かされた作品だと思います。「ピアノの詩人」ショパンを象徴するような曲だと思います。
それでもショパン自身は「私が死んだらこの曲は破棄するように」と遺書に書いていたそうです。
なんで?信じられませんよね。もしも本当にこの曲が指示通りに破棄されていたらと思うと怖くて身震いします。こんなに美しくてやさしい音楽がこの世から消えていたら、人類にとっての大損失でしたよね。残ってくれて本当によかったです。
久しぶりに即興曲第4番(幻想即興曲)を弾いてみて、あらためて素晴らしい作品だと感動しました。
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 Op.66 [2023]
Frederic Francois Chopin:Impromptus No.4 in C-sharp minor, OP.66 [5:55]
再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら
Chopin-Fantaisie-Impromptu-2023-3.mp3
▼特別編・永井美里 ミニ写真館
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