2023年06月03日


ドヴォルザーク:交響曲 第9番 ホ短調 Op.95 「新世界より」 第1楽章, 第4楽章 [2023] / Antonin Dvorak:Symphony No.9 in E minor, Op.95 "From the New World"

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♪第11話:アンドウトワ、推しメンの大指揮者オットー・クレンペラーを語る

こんにちは。
CMSLシンフォニックオーケストラの主席指揮者アンドウトワです。

最近、楽団員のみんなが私の演奏を「遅い、遅い」というので、多分そのことの直接の原因となった存在についてお話しします。
その人物とはフルトヴェングラー、ワルターらと並び称される大指揮者のオットー・クレンペラーです。

私は子供の頃、クラシック好きの父の影響でワルターが指揮するベートーヴェン「運命」のCDを聴いて、初めてオーケストラや指揮者に興味を持つようになりました。
ワルターが奏でる「運命」の第2楽章はあたたかく感動的で「オーケストラっていいなぁ」と子供心に興味をひかれたのを覚えています。

長らくワルターの「運命」は私にとっての定盤でしたが、それを打ち崩したのが他でもないクレンペラーその人でした。
最初にクレンペラーの「運命」を聴いた時、あまりの遅さに「一体なんなんだこれは?」としばらく困惑したのを思い出します。
「さすがにどこかで速くなるだろう」と聴いていても演奏は一向にテンポを変えず、とうとう同じ調子で全曲が終わってしまいました。

ですが「こんなのを聴く人がいるんだろうか?」と思いながらも、なぜか何度も聴き返してしまったことも事実です。
この得体のしれない感覚が何なのか、しっかり確認したいと思ったのかもしれません。

次に聴いたクレンペラーのCDは同じくベートーヴェンの交響曲第7番でした。
これこそ「遅い」などという表現では足らないほどの"超低速"演奏で、思わず一度CDを止めてプレーヤーが壊れたのかと叩いてしまったくらいです。
もちろんCDプレーヤーは正常で、何度かけても変わらず鈍重な演奏が聴こえてくるばかりでした。

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ところが何度目かの再生中に突然、同じ演奏がまったく違って聴こえ始めました。
すると、あれほど「遅い」と感じていた演奏がまったく苦にならないどころか、とてもしっくりときて聴いている自分に気づきました。
第7番には他のベートーヴェンのシンフォニーと比べて若干、内容が薄いライトな印象を持っていた私でした。

ですが今聴いている第7はそれまで耳にしたことがないほど立派で、格調高く、高貴な威厳に満ち溢れていました。
「第7って、こんなに凄い音楽だったのか…」と初めてその本当の魅力に気づいた瞬間でした。
それは同時に、指揮者オットー・クレンペラーの偉大さに目覚めた瞬間でもありました。

一度彼の音楽を理解してからは、逆に他の指揮者の演奏がせかせかと速く、いかにもスケールの小さな演奏にしか聴こえなくなってしまいました。
その後はそれまで持っていた名曲のCDをひと通りクレンペラーで買い直して、彼の演奏ばかり聴いていました。
私がドイツ・オーストリアのシンフォニーに惹かれるようになったのも、おそらくクレンペラーを聴いたのが大きかったと思います。

私が好きなクレンペラーの名盤ベスト3は、ベートーヴェンの「運命」と「第7」、それにドヴォルザークの「新世界より」です。
特に「新世界より」は、私がそれまでこの曲に対して持っていた「ポピュラーだけど中身はそこそこ」というイメージを一変させた名演です。

このシンフォニーにはドヴォルザークがアメリカ滞在中に聴いた黒人音楽の影響が全編に感じられます。
またその分、旋律の親しみやすさなどもあって比較的にポピュラーな印象が強くなっている曲です。

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しかし、そもそもドヴォルザークを見出した師匠はドイツの大作曲家ブラームスです。
ですから「新世界より」にはドヴォルザークが尊敬するブラームスに代表される、ドイツの王道シンフォニーの緻密な構築性が感じられます。
外形は堂々として立派で、とても"ポピュラー"のひと言では済まされないものがあります。
そのことをハッキリと認識させてくれたのがクレンペラーによる演奏でした。

クレンペラーは60代までは現代音楽を得意とする即物的でテンポも速い普通の指揮者でした。
しかし70代になると突如演奏が極端に遅くなりました。
脳疾患で半身不随になり、口もろれつが回らない状態でしたが、その音楽はいよいよ深みを増し、時に大宇宙を感じさせるほどのスケールの大きさがありました。

クレンペラーの音楽は地上の細々とした出来事は相手にしていません。彼の演奏はただ遅いのではなく、あたかも大宇宙の森羅万象の運行のような悠久の時の流れを思わせる速度なのです。

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…あぁ、つい熱くなってしまいました。
私にクレンペラーを語らせたらきりがありません。最近流行りの「推しメン」っていうやつですね。

ただ最後にひとつだけ。
70年代にNASAが打ち上げたボイジャー2号には、宇宙人に向けて地球の文明を知らせるいくつかの資料が搭載されています。
その中のひとつがクレンペラーがフィルハーモニア管弦楽団を指揮するベートーヴェンの「運命」なのです。地球を代表する文化遺産に選ばれたということですね。
この演奏は第4楽章提示部を反復した冒頭が最高です。何度聴いても晴々とした気分になり、高揚感に満たされます。

ちなみにクレンペラーの「運命」にはバイエルン放送交響楽団を振った輸入盤の名演もあります。こちらはフィルハーモニアよりさらに遅いテンポでスケールは雄大。
第1楽章、第4楽章の提示部反復はないものの、これもひとつのスタンダードになり得る怪演です。日本のEMIからもノイズ処理をした正規盤が販売されていました。



ドヴォルザーク:交響曲 第9番 ホ短調 Op.95 「新世界より」 第1楽章 [2023]
Antonin Dvorak:Symphony No.9 in E minor, Op.95 "From the New World"
I: Adagio - Allegro molto [10:13]



Dvorak-Symphony-No9-From-the-New-World-1st-2023.mp3

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ドヴォルザーク:交響曲 第9番 ホ短調 Op.95 「新世界より」 第4楽章 [2023]
Antonin Dvorak:Symphony No.9 in E minor, Op.95 "From the New World"
IV: Allegro con fuoco [12:16]



Dvorak-Symphony-No9-From-the-New-World-4th-2023.mp3


▼オーケストラを構成する楽団員たち
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posted by CMSL クラシック名曲サウンドライブラリー at 11:08 | 交響曲 (Symphony) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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