♪第10話:コンマス・レアの急成長に指揮者のトワもタジタジ?…白熱のリハーサル現場
こんにちは。
CMSLシンフォニックオーケストラのコンサートマスター風華レアです。
先日、プロフィール写真を撮り直しました。
最初に撮影したものは写真というよりイラスト風でそれも素敵でしたが、私自身の実像とかけ離れている写真も多かったです。どうやらカメラマンさんの独自の作風が全面に出ていたようです。
ですから今後は、今日新たに公開したプロフィール写真を「実写版・風華レア」と考えていただければと思います。
さて今回の「ヴォカリーズ」も私にとって父の思い出が詰まった曲です。
フランス人の父は仕事の関係で日本を訪れ、そこで母と知り合い結婚しました。
その後、私が生まれて、父は私が15歳の時に亡くなるまで家族と日本で暮らしました。
クラシック音楽が好きだった父は、アンナ・モッフォとストコフスキーによる「ヴォカリーズ」を好んでステレオで聴いていました。
私もそれを物心つく前から聴いていて、いつかヴァイオリンで弾いてみたいと思っていました。
それで父が亡くなった時には知人にピアノ伴奏を弾いてもらい、レクイエムとしてその曲をヴァイオリンで弾いて捧げました。
「ヴォカリーズ」は元々、ラフマニノフが声楽の発声練習用に書いた作品で、全編を通して歌詞がなく、歌手はハミングで歌い上げるのが原型です。
とても美しい旋律で器楽曲として演奏されることもあります。伴奏の低音がうねるように半音進行する部分は、ラフマニノフらしさにあふれ引き込まれます。
この名曲を取り上げることになり、指揮のトワさんとヴァイオリン独奏の私、それに弦楽パートの楽団員たちが最初に行ったリハーサルは聞くに堪えない惨憺たる内容でした。
トワさんは自分が好きな音楽の時は本気ですが、そうでもないとあからさまに気持ちが乗っていないのがわかります。
例によって「ヴォカリーズ」もとても遅いテンポで振り始めました。それは別にいいのですが、伴奏だからか弦への指示があまりに適当でした。
●ヴォカリーズのリハーサル音源(抜粋)
再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら
少し頭にきた私はわざと主旋律を食い気味に奏で、指揮者に代わって私が演奏を引率する素振りをみせました。
するとトワさんは指揮棒を下ろし「なんでそんなに走るのですか?」と私に向かって言いました。私は「演奏に緊張感がなくてついていけません。これぐらいしないと寝てしまいそうです」と答えました。
「でもこれでは音楽として破綻しているでしょう?」とトワさん。
私は「それならもっと腰の入った、縦の線がハッキリわかる伴奏にしてください」と思い切って言いました。するとトワさんが「う〜ん、そんなに手を抜いているつもりはないんですがねぇ」と、とぼけたことを言うので私は「ブラームスのシンフォニーみたいに本気で演奏してください!」と声を荒げてしまいました。
それを隅で見ていたガロ理事長は、横を向いて「ぷっ」と吹いていました。思わず「ピキ〜っ」となった私は「笑ってないで理事長からも何とか言ってください!」と子供のように怒鳴ってしまいました。
理事長は笑いながら近づいてくると「いやぁ、すまない。でもいいやり取りだったよ。たしかにトワは好き嫌いがハッキリしているからね。これくらい言わないとスイッチが入らないかもしれない」とうなずきました。
続けて「それにしてもレアは出会った頃とは見違えるように逞しくなったね。コンマスになってまだ数か月でこれだから今後が楽しみだよ」と目を細めました。
またトワさんに対しては「ヴォカリーズの弦楽伴奏版はピアノ伴奏版にはない重厚感があるね。私は向こうで聴いていて、ブラームスの弦楽六重奏を思い出したよ。どうだろう、トワ。なにもラフマニノフの曲だからと捉われずに、トワなりの深くて重い演奏にしてみたらいい。きっといいものが生まれると思うよ」と言うと、背中で手を振りながらリハ現場を去っていきました。
理事長のアドバイスで目の色が変わったトワさんは、そこからあらためてリハーサルをやり直して、弦楽パートにも細かい指示を出し、何度も手直しして別物のような音楽を作り上げていきました。
本番でもそれが十二分に発揮できたと思います。私も心からの充足感を感じました。
余談ですが、リハのあと帰宅するトワさんをこっそりつけていくと、コンビニに立ち寄りカップ酒の「白鶴まる」とイカの燻製を買っていました。「オヤジか!」と思わず突っ込んだ私でした。
ラフマニノフ:ヴォカリーズ Op.34-14 [2023]
Sergei Vasil'evich Rachmaninov:Vocalise Op.34-14 [9:06]
再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら
Rachmaninov-Vocalise-2023.mp3
▼オーケストラを構成する楽団員たち
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