モーツァルトの最後の交響曲は、彼が書いた他の交響曲とは何かが違います。
私はこれまで「ジュピター」はその名の通り、ローマ神話の最高神のように輝かしく、壮麗、雄大な音楽であるとのみ捉えていました。
しかし、今回16年ぶりに一から打ち込み直した過程で、あることに気づきました。
これはモーツァルトがどん底から這い上がり、光と勝利に手を伸ばした命がけの意志の表明なのだと。
作曲当時のモーツァルトは貧窮を極め、近づく死の中、体調は最悪の状態でした。
この最中に39番、40番、41番の名作を短期間に書き上げたのはまさに奇跡と言っていいほどですが、それだけにモーツァルトの筆は冴えわたり、気迫のこもった作品が遺されました。
特に41番の第1楽章には、それが如実に表れています。
有名なハ短調からハ長調に切り替わる転調部分は、モーツァルトとしてはやや強引なきらいがあるものの、有無を言わさずこの苦境を打破しようという気概を感じます。
また後半、再現部のヘ短調から主調のハ長調へと魔法のような転調を繰り返す部分は、モーツァルトの圧倒的な天才に恍惚としながら、気づけば自分の中の問題も解決したかのような感覚になります。
「苦悩を突き抜けて歓喜へ」はベートーヴェンのモットーとして知られますが、実はこれを最初に表現したのはモーツァルトではなかったのかと制作しながら何度も感じました。
「ジュピター」は実生活の上では少しの希望もなくどん底にいたモーツァルトが、精神・意識の世界で苦境を打破し、現状に打ち勝ち、ついには宇宙の最高神の御前にまで到達する音楽であったと思います。
現在世界はかつて考えられなかったような疫病、戦争、自然災害などに苛まれています。
しかしこうした出来事は、次に訪れる光、希望、平和、そして愛に向けた、そこに至るための試練だと私は考えています。
苦しみはそれ自体のためにあるのではなく、その先の歓喜へと至るための目覚まし時計のようなものだと思います。
ですから、今困難に直面している方々も、これで終わりではなく、むしろこの先に本来の目的である魂の勝利があるのだと信じて、闇に覆われた現在を生き抜いていただけたらと思います。
(ローマ神話のジュピターとは日本神道の天照大御神、空海の言う大日如来のようなものだと思います)
9/11 公開していた音源の音響・演奏内容を修正して差し替えました。
ベルリンフィルハーモニー大ホールのステージから20m付近の音響を採用しています。
モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」第1楽章 [2022]
W.A.Mozart:Symphony No.41 in C major, K.551 "Jupiter"
I. Allegro vivace [9:43]
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Mozart-Symphony-No41-Jupiter-1st-2022-2.mp3