♪愛する妻に捧げられたメランコリックなピアノ曲
「スペインのショパン」とも呼ばれる作曲家・ピアニストのグラナドスは乗船が大嫌いでした。
演奏会のためにマジョルカ島に船で渡った際、グラナドスは船室に閉じこもって時計を睨んで過ごし、
バルセロナに戻ったときにはもう二度と船には乗らないと友人たちに宣言したといいます。
そんなグラナドスが奇しくも、嫌っていた船旅により命を落としたのは、何かの因縁でしょうか?
グラナドスは1911年にゴヤの絵画に触発され作曲した、ピアノ組曲『ゴイェスカス』を、
自ら2幕もののオペラに改作し、パリでの初演を計画していました。
しかし、第一次世界大戦の勃発で断念したところへ、アメリカのメトロポリタン歌劇場から
ニューヨークでオペラ『ゴイェスカス』を初演したいとの申し出がありました。
夫妻での列席を求められたものの、船旅が嫌いなグラナドスは、ためらった末にこれを受け、
1916年1月、ニューヨークで行われたオペラの初演は大成功となりました。
ウィルソン大統領の招きによりホワイトハウスで演奏会を開くことになったグラナドスは、
予定していたスペインへの直行便をキャンセルしてアメリカ滞在を延長しました。
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3月に入ってグラナドス夫妻が帰国のため乗船したサセックス号は、ロンドン経由で英仏海峡を渡航中、
3月24日にドイツ軍の潜航艇Uボートによる魚雷攻撃を受け、夫妻はその犠牲となってしまったのです。
グラナドスは救命ボートに引き上げられる際、波間に沈もうとする妻アンパロの姿を見つけました。
妻を助けようとした彼は再び海中に身を投じ、二人はもつれ合うように暗い波間に消えたといいます。
「嘆き、またはマハと夜鳴きうぐいす」は、グラナドスの最愛の妻アンバロに献呈されました。
組曲中で最も知られるこの曲は、窓辺で物思いに沈むマハと夜に鳴くうぐいすの情景を描いています。
マハとはマドリッドの下町の粋な女のことで、マホは粋な男を指します。
グラナドスの作品中、際立って物憂げなこの曲は、バレンシア地方の民謡が基になっています。
メランコリックな曲調が、どこかグラナドスと妻の生末を暗示しているかのようです。
オペラでは最後のクライマックスでマホが決闘に破れ、マハが見守る中死んでしまいます。
マハがマホを思う切なさを、うぐいすの声に託したのが「嘆き、またはマハと夜鳴きうぐいす」なのです。
組曲「ゴイェスカス〜恋するマホたち」より第4曲「嘆き、またはマハと夜鳴きうぐいす」
Enrique Granados:Goyescas - Los majos enamorados, parte I
4. Quejas, o la maja y el ruisenor [6:30]
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