2015年02月17日


ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 Op.67 「運命」 第4楽章 [新録音2014]


ベートーヴェン:交響曲第5番第8番、他
価格:
EMIミュージックジャパン(2010-09-22)
売り上げランキング: 23245


♪地上の苦しみを突き抜けるベートーヴェンの音楽

年明けから始まった腰痛のため、絶対安静の日々が続く中、
一日だけなぜか好調で、体の自由が利く日がありました。

「何かを制作しなければ!」

その時、脳裏に浮かんだのは、ベートーヴェン「運命」の第4楽章でした。

もしかしたらもう立てなくなるのでは…という不安の最中にあって、
これで最後になるかもしれないと考えた時、
やるべき曲は、私にとっては「運命」しかなかったのです。

二十歳の頃の私は、極度のうつ状態に悩まされ、
もういつ死んでも構わない、という精神状態でした。
そんなやるせない日々に、ふと手にしたのが、
ブルーノ・ワルター指揮の「運命」のレコードでした。

何とはなしにレコードに針を落とすと、第2楽章冒頭のあたたかなチェロの音に、
私は思わず涙を流していました。
そして、歓喜の第4楽章を聴いているうちに、
自分の中で何かが“カチッ”と音を立てて回転するのを感じたのです。
人生観が変わったというより、“人間”が変わった気がしました。

私はあの瞬間、生まれ変わったのかもしれません。
もう自堕落な日々はやめ、目的を持って生きるようになりました。
人生には自分が考えるよりもっと広大で、絶対的な世界があるのだと考えるようになりました。

これほどまでに、生き方そのものに影響を与えられた曲は他にはありません。

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「運命」という曲には、他のあらゆる音楽にはない、特別な力があります。
音楽が人の人生を変え、生まれ変わらせる力があるということを、その時初めて知りました。

以来、「運命」は私にとって、いつも“特別”な音楽となってきたのです。

「運命」の名演といえば、まずはクレンペラーです。

最初に聴いた時は「なんて遅いんだ」と驚きましたが、
聴きなれるうちに、他の演奏がせかせかとスケールが小さく、
「運命」の本質を表していないと感じるまでになってしまいました。

クレンペラーの演奏は人間界を超え、宇宙の彼方、神の懐にまで達するのです。
クレンペラーの演奏では、バイエルン放送交響楽団とのライブがお気に入りでした。

ですが、二周、三周して、やはり、フィルハーモニア管弦楽団との、
1960年の録音が最高だと思うようになりました。
第4楽章提示部の反復冒頭のファンファーレが絶品なのです。

ということで、どうしてもこれを意識したスタイルになってしまうのですが、
この音楽は何度やっても完璧という感覚がなく、
まだまだ正解を探す旅は続いていくことになりそうです。


////////////// 追記: 2015.2.17

さそうあきらさん原作の「マエストロ」が映画化され話題です。

この漫画は「のだめカンタービレ」が人気だった頃と同時期に連載され、
音楽の本質に深く切り込む内容に、強く引き込まれました。

単行本は一巻でしたが、さそうさんは続きをWEBで無償公開してくださり、
次の新作が公開されるのを今かいまかと待っていたことを思い出します。

この作品ではベートーヴェンの「運命」やシューベルトの「未完成」といった、
クラシック音楽の代名詞的な楽曲が中心として描かれています。

LPレコード時代にはこの2曲のカップリングが定番のひとつで、
どの指揮者が最高かといった議論が盛んに行われていたようです。
それほどに演奏家の実力が浮き彫りになる作品でもあるようです。

古今東西に名曲はあれど、「運命」ほどに人の人生が凝縮された作品を私は知りません。

一般には「ジャジャジャジャーン♪」の第1楽章があまりに有名ですが、
演奏時間の長さから見ても、ベートーヴェンが最も言いたかったことは
むしろ第4楽章にあると言えると思います。
前の3つの楽章はその前置きなのです。

では、ベートーヴェンが言いたかったこととは何かと言うと、
言葉にするのは野暮かもしれませんが、あえてそうするなら、
「人生はNO(否定)ではなくYES(肯定)だ。たとえ今がどんなに困難であろうと、
魂の導きを信じて歩けば、いつかは必ず光にたどり着く。」
ということだと思うのです。

「苦悩を突き抜けて歓喜へ至れ」

とはベートーヴェンの言葉ですが、その精神が何より発揮された曲が、
「交響曲 第5番 ハ短調」という作品だと思います。

そして「運命」の結論こそが、この第4楽章なのです。

* 慈愛の雨が降り注ぐような第2楽章もあわせて聴くことで、
よりベートーヴェンの本意が伝わってくると思います。
もしかすると、「運命」で最も美しいのは第2楽章かもしれません。



ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 Op.67 「運命」 第4楽章 [新録音2014][14:02]
L.V.Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67
4. Allegro - Presto


https://classical-sound.up.seesaa.net/Beethoven-Symphony-No5-4th.mp3



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ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 Op.67 「運命」 第2楽章


ベートーヴェン:交響曲第5番&第6番
ワルター(ブルーノ)
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル (2004-11-17)
おすすめ度の平均: 5.0
5 入魂の運命
5 濃厚な田園
4 教科書的アルバム
5 「激しさの中の安らぎ」と「静寂の中の激しさ」


♪人生に訪れるやすらぎと心の奥の理想郷

激しい第1楽章のあとにヴィオラとチェロで始まる導入は、
何度聴いても胸に染み入るようなものがあります。

この楽章は瞑想的な部分もあり、
人間の深層心理に入り込んでいくような力を感じます。

誰もの心にいきづく平和で理想に満ちた世界を描いているかのようです。
全体に生きることへの愛や憧憬の思いが、この音楽には流れていると思います。


////////////// 追記: 2015.2.17

ベートーヴェンはこの楽章の第1主題を14回書き直したと言います。
そして、1回目と最後の14回目は、結局同じ旋律だったそうです。
それほどに熟考の限りを尽くしたことがうかがえます。

このことを突き止めたのはメンデルスゾーンです。
彼は第2楽章の主題の音符の上に、何枚も修正の紙が貼られているのに気づきました。
そして、その紙を1枚ずつていねいに剥がしていくと、
結局、一番上の14枚目と、最初の音符はまったくいっしょだったのです。

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「♪ミーラド ドーシラ[ド]ファー」

これが私たちが馴染んだ第1主題ですが、何枚目かの修正途中の旋律では、

「♪ミーラド ドーシラ[ソ]ファー」

と、上昇する一音がそのまま下降しています。

おそらくベートーヴェンは、この一音を上げるべきか、下げるべきかで、
何度も頭の中で反芻を重ね、ようやく最後に上げようと決心したのだと思います。

楽章の顔ともなる大事な主題なので、決して外すことは許さなかったのでしょう。
作曲家の執念を垣間見るかのようです。



ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 Op.67 「運命」 第2楽章
Ludwig van Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67
2. Andante con moto


http://classical-music.aki.gs/Beethoven-Symphony-No5-2nd.mp3



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