2010年10月29日


ショパン:バラード 第3番 変イ長調 Op.47

ショパン:バラード&即興曲集
ブーニン(スタニスラフ)
TOSHIBA-EMI LIMITED(TO)(M)(2007-07-25)
おすすめ度の平均: 4.0
4聴き応えあり

♪ショパンの豊かな楽想が自由に羽ばたいたバラード

ポロネーズやマズルカなどのポーランド民謡に基づく作品とは違い、
バラードには舞踏的な定型のリズムというものはありません。
元は14,15世紀の舞踏歌が発祥ですが、その後叙事詩がそう呼ばれ、
独唱や合唱曲を経てショパンによって純粋な器楽曲に至りました。

ですからバラードはショパンが自由に楽想を描けたジャンルです。
表題にとらわれず絶対音楽を貫いた彼の持ち味が発揮されています。
とはいえ全4曲が3拍子的な舞踏性を残しているのも面白いところです。

バラードはポーランドの詩人ミツキェヴィチの詩にインスパイアされたと伝えられます。
ミツキェヴィチは政治活動家でもあったポーランドの国民的詩人で、
愛国心に厚かったショパンも彼を尊敬していました。

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当時のロマン主義の歌曲の詞や台本の多くはミツキェヴィチの作品に基づき、
有節形式を持たないバラードの歌詞は、自由なロマン主義の扉を開きました。
ミツキェヴィチとショパンのバラードの関連性には不明な点も多いものの、
こうした創作上の精神的な影響は少なからずあったと思われます。

ミツキェヴィチの詩「水の精」によるとされるバラード第3番は、
他の3曲のバラードと比べて華やかさ、優雅さがあるのが特徴です。

「フランスの首都の貴族的環境に順応した、洗練された知的なポーランド人が、
その中に明らかに発見されるであろう。」とシューマンは手紙に綴っています。

一見サロン的な気軽さもある第3番ですが、2番、3番にも増して作曲技術は高まり、
対位法的な手法も取り入れるなど、円熟期の充実した作品になっています。





ショパン:バラード 第3番 変イ長調 Op.47
Frederic Chopin:Ballade No.3 in A flat major, Op.47



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2010年10月20日


メンデルスゾーン:劇付随音楽《真夏の夜の夢》 Op.61-5 「間奏曲」

メンデルスゾーン:劇付随音楽「真夏の夜の夢」
クレンペラー(オットー)
EMIミュージック・ジャパン(2002-06-19)
おすすめ度の平均: 5.0
5「結婚行進曲」しか知らない人にもお勧め
5まさにクレンペラー

♪組曲としても取り上げられる珠玉の名品

「真夏の夜の夢」の原題は「A Midsummer Night's Dream」です。
“Midsummer”は実際には真夏ではなく夏至のことを指しています。

古くからヨーロッパには夏至が近づくと妖怪や妖精たちが現れ、
人間にいたずらをするという伝説が信じられていました。
シェイクスピアの戯曲「真夏の夜の夢」はこれがもとになっています。

メンデルスゾーンは17歳の時、翻訳されたこの戯曲を姉と共に読み、
ファンタジックな物語の世界に引き込まれそれを音楽にしました。
最初は姉との4手のピアノ連弾曲として作曲したのですが、その後管弦楽用に編曲。
メンデルスゾーンの家の庭にあるホールで、音楽会の演目としてお披露目されました。

正式な初演は翌1827年2月のことです。それから17年という長い年月を経て、
再びこの戯曲の音楽を書くことになったのは彼が34歳の時のことでした。

プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世は「真夏の夜の夢」の上演にあたり、
同名の序曲の素晴らしさに感銘を受けたメンデルスゾーンに、
ポツダムの離宮での公演用に劇中音楽の作曲を依頼しました。

こうして序曲に追加して12曲が、新たに劇付随音楽として作曲されたのでした。
この公演で序曲はそのまま流用され、今も両方をあわせて演奏されることが多くなっています。

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作品番号はそれぞれ序曲がOp.21、付随音楽がOp.61です。
これほど長いブランクがあったにも関わらずそれをまったく感じさせないところに、
序曲の音楽としての完成度の高さやメンデルスゾーンの早熟さが窺えます。

演奏会では序曲と共に「スケルツォ」「間奏曲」
「ノクターン」「結婚行進曲」などがよく取り上げられています。






Felix Mendelssohn:"A Midsummer Night's Dream" Intermezzo Op.61-5


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2010年10月14日


メンデルスゾーン:《真夏の夜の夢》 序曲 Op.21

メンデルスゾーン:真夏の夜の夢
レヴァイン(ジェイムズ)
ユニバーサル ミュージック クラシック(2007-02-28)
おすすめ度の平均: 5.0
5ドイツ・ロマン派の二大劇音楽のカップリング

♪若くして完成の域に達していた早熟の天才

古典的気風とロマン派的情緒を持つフェリックス・メンデルスゾーン。
当時押し寄せていたベルリオーズなどの濃厚な表現を避け、
あえて古典的で均整の取れた音楽性を保ち続けた作曲家でした。

名前のフェリックスには“幸福な児”という意味があります。
その名の通り彼の人生は順風満帆なものでした。

裕福な家庭に生まれ、早くから才能に恵まれ容姿も端麗。
あのゲーテからの寵愛も受け、
指揮者として作曲家として成功そのものの人生を送りました。

しかしユダヤ系の成功者として同業からの妬みが多く、
お坊ちゃまだった彼の繊細な気質は絶えず休まることがなかったといいます。
またナチスのユダヤ人排斥により、メンデルスゾーンの音楽は
ドイツでほとんど顧みられなかった時期もあります。

彼の音楽についてシューマンはこんなことを言っています。

「“真夏の夜の夢”の序曲ひとつでメンデルスゾーンは立派な作曲家である。
だから彼の他の作品は別の作曲家の名前をつけてもいいようなものだ。」

またある批評家のこんな名言があります。

「もしモーツァルトに幸福な生涯を与えたなら、
さぞかしメンデルスゾーンに似たことだろう。」

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わずか17歳で書き上げた“真夏の夜の夢”序曲には、
メンデルスゾーンの早熟で豊かな才能が詰まっています。
簡潔で無駄のない造りは既に完成の域に達していて、
まさに天才の名にふさわしいものです。

また“真夏の夜の夢”序曲にはこんな逸話もあります。
ロンドンで初演の帰り道、メンデルスゾーンは馬車に総譜を忘れてしまいます。
仕方なく書き直したスコアと、後に見つかったスコアを見比べると、
一音の違いもなく完璧にオリジナルを再現していたということです。






Felix Mendelssohn:"A Midsummer Night's Dream" Overture Op.21


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2010年10月10日


シューマン:クライスレリアーナ Op.16 第1曲 Agitatissimo ニ短調

シューマン:子供の情景/クライスレリアーナ 他
ホロヴィッツ(ウラディミール)
SMJ(SME)(M)(2008-11-19)
おすすめ度の平均: 5.0
5『子供の情景』はやはりホロヴィッツ
5最高の完成度

♪シューマンのピアノ曲を代表する名作

シューマンにピアノを教えたハイデルベルク大学のヴィーク教授は、
娘クララとシューマンの恋仲を認めず、結婚にも猛反対しました。
まだ無名の作曲家シューマンの将来に不安を感じていたのです。

その頑迷さは強固で、遂にはシューマンが裁判を起こす程でした。
そうした最中、シューマンはクララにこのような手紙を送っています。

「この前、君に手紙を書いてから新作を一冊仕上げました。
僕はこれを”クライスレリアーナ”と名付けるつもりです。
この作品は君と、君への僕の想いが主役を果たす音楽です。
これを君に捧げます。他の誰でもなく、君に。」


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クライスレリアーナにはシューマンのクララに対する恋の陶酔と、
それが叶わぬかもしれない焦燥感が交錯して表れています。
健全な「子供の情景」「謝肉祭」などとは違う、シューマンの別の側面を示した作品です。

タイトルのクライスレリアーナは彼が愛読したホフマンの同名小説に由来します。
物語の主人公クライスラーは哲学的思考と屈折した精神の持ち主。
また叶わぬ恋を描いたこの小説に、クララへの複雑な恋愛感情を投影したともいわれています。

しかし、完成された作品はクララではなく、ショパンに献呈されました。
シューマンは評論家としてシューベルト、ショパン、ブラームスらを世に紹介しています。






Robert Schumann:Kreisleriana Op.16
1. Äußerst bewegt (Extremely animated), D minor
シューマン:クライスレリアーナ Op.16 第1曲 Agitatissimo ニ短調.mp3


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2010年10月03日


シューベルト:ミサ曲 第6番 変ホ長調 D950 6. アニュス・デイ

シューベルト:ミサ曲第6番
ジュリーニ(カルロ・マリア)
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(2005-06-22)
おすすめ度の平均: 4.0
4静謐、明朗なミサ曲の名盤

♪最晩年のシューベルトが到達した崇高なる境地

大作曲家と称される者は多々いますが、天まで突き抜けるほどの
強烈なインスピレーションを感じさせる作曲家はそう多くありません。

彼らの天才が創り出す奇跡の調べは、
聴く者の魂を現世を越えた遥かな次元にまで引き上げてくれます。
それは理論などでは説明できない、音楽や芸術の不思議です。

シューベルトは確かにそんな力を持った作曲家であると言えるでしょう。
そしてそんな彼の最高傑作との声も少なくないのが晩年の名作「ミサ曲第6番」です。

ベートーヴェンの「荘厳ミサ曲」と並べても恥ずかしくなく、
終曲の「アニュス・デイ」にはモーツァルトのレクイエムのような厳粛ささえ感じられます。

バッハのミサ曲ロ短調などとあわせて同等に扱ってもおかしくないのですが、
なぜかそれ程認知度が高いとは言えず、演奏CDもあまりに数がありません。
しかしその音楽には後年のブルックナーを思わせるようなスケールの大きさがあります。

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1888年、シューベルトの墓が学者たちによって、遺骨調査のため掘り起こされました。
これに立ち会ったのがシューベルトをこよなく愛したブルックナー。
学者の手から骨片がこぼれ落ちそうになるたび手を出そうと身構え、
ついには我慢できず棺に覆いかぶさるように遺骨に接吻したそうです。

このミサ曲を聴くとなぜそこまでブルックナーがシューベルトを愛したかわかる気がします。






F.Schubert:Mass No.6 in E flat major, D950 6. Agnus Dei
シューベルト:ミサ曲 第6番 変ホ長調 D950 6. アニュス・デイ.mp3


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